会長就任のご挨拶

2020年10月

日本医学哲学・倫理学会会長 田代志門
(東北大学准教授)

この度、浅見昇吾会長の後任を務めさせて頂くことになりました。年齢的にもまさか自分が会長を務めることになるとは想定していなかったこともあり、今になってひしひしと責任の重さを感じています。
これから3年の任期となりますが、この間、私の方では「学会の持続可能性」と「医療における人文学の価値」という2つのテーマを軸に学会運営を進めていきたいと考えています。前者については、特に若い世代の会員に学会運営に積極的に参加して頂き、可能な限り世代交代を進めることで本学会の持続可能性を高めたいと考えています。そのため、今回各委員会の部門長にも可能な限り若手の会員や部門長未経験の先生方に入って頂くようにしました。特に事務局体制については、前事務局長の坪井雅史先生が業務委託を含めて様々な形で合理化を進めて頂いたことの上に立ち、特定の会員に負担が集中しないような堅牢な体制作りを進めていきたいと考えています。
もう一つの「医療における人文学の価値」については、私自身はこの学会の最大の魅力であり、学会のアイデンティティの核になるものだと考えていることです。私自身を含め、必ずしも自分は専門ではなくとも、哲学・倫理学を中心とする人文学的なアプローチに惹かれてこの学会に参画している、という会員は少なくないと思います。この点で、本学会の立ち位置はアメリカにおける医療人文学の発展に寄与した「健康・人間価値学会(Society for Health and Human Values, SHHV)」との類似性を感じます。アメリカではSHHVはやがて他の生命倫理学系の学会と統合され、今のASBH(American Society for Bioethics and Humanities)に至る訳ですが、そこに人文学(Humanities)という言葉が入っているのはSHHVの影響だと思われます。そういった意味では、広い意味での医療における人文学的なアプローチの価値を広く共有し、その成果を医学教育や臨床現場に還元していくことが本学会の重要な役割だと考えています。そのためにも、私の任期中に学会のなかで医学哲学・倫理学教育に関するワーキンググループを組織し、学会で取り組むべき課題を明確化したいと考えています。
以上、微力ではありますが、みなさまと一緒に、日本の医学哲学・倫理学の発展に寄与していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。