学会案内

日本医学哲学・倫理学会について

学会誕生までの経緯

「日本医学哲学・倫理学会」の誕生までの経緯については,『日本医事新報』(第3055号.昭和57.11.13.)によって紹介されたため,それをそのまま転載する.拾読して頂ければ幸いである.

日本医学哲学・倫理学会の誕生

医学・歯学・薬学と哲学・倫理学・宗教学などとが関わりあう諸問題の研究・教育を進め,その発展をはかることを目的とした「日本医学哲学・倫理学会」がこのほど発足し,その第1回全国研究大会が,今月27日,28日の両日,北九州市の産業医大で開かれる.この学会は,初代の会長に選ばれた東京医大教授の高間直道氏らの提唱により,全国国公私立の医・歯・薬系単科大学の哲学・倫理学・宗教学担当教授約50人が中心となって設立されたもので,医の倫理の高揚,医学教育における人間教育の重視が叫ばれている折柄,医界に多大の関心を呼ぶものとみられる.

本学会発足までの経緯のあらましを紹介すると,前記の高間東京医大教授の呼びかけで,昭和55年11月に,東京医大で第1回全国医歯系大学「哲学」「倫理学」担当者会議が開かれた.同会議の開催の趣意は,「わが国の医歯系大学には国公私立という設置形態の差はあっても,内容に差があってはならず,常に最高水準の医学教育を施すと共に,複雑化した現代社会において人間として且つまた医師としてどう生きるかという哲学・倫理学,並びに応用科学でもある医学をどう捉えるか,ということを確立するような医師を養成する責務があり,そのためには哲学や倫理学をいかに教えるかという問題はもとより,医学の学際的な研究成果を常に導入すると共に,従来の医学が目標としてきた人間の健康と疾病の克服という問題のみならず,人間の生存や幸福を追求する方向をとり入れる必要があろう」というものであった.

第2回会議は,薬系大学と「宗教学」担当者を含めて,昨年11月,大阪医大で開かれ,この2回の会議で,医歯薬系大学における哲学・倫理学・宗教学の教育の仕方や役割,或は学生たちに医師・歯科医師等としての自覚を促すために,それらの科目をいかに生かすか,更には医学と哲学・倫理学を結ぶ点について討議を重ねて来た結果,昨年の会議で日本医学哲学・倫理学会の発足が議決され,今春,会則・役員なども決り,発足したものである.

同学会は,年1回,全国研究大会・総会を開くほか,日本学術会議との連絡,国内外の関連学会との交流,学会誌の発行(年1回)を行うこととしている.

この27,28日の第1回大会は,個人研究発表のほか,池見酉次郎九大名誉教授の特別講演「医歯薬学生教育における哲学・倫理学の役割」,シンポジューム「現代における医学と哲学との接点」,土屋健三郎産業医大学長の挨拶(同大学教育方針の紹介を含む)などが行われる.高間学会長は「学会はともすると形式的,権威主義的になり易いが,ざっくばらんでアット・ホームの雰囲気に終始したい」と抱負を語っている.第1回大会の成功と学会の今後の発展を大いに期待したい.

(『医学哲学・医学倫理』創刊号に寄せられた高間直道先生の言葉)

『医学哲学・医学倫理』

本誌は1981年設立の「日本医学哲学・倫理学会」の学術機関誌である.現代医療の飛躍的革新が,洋の東西を問わず,人間の社会に深刻な波紋(生殖技術の開発,延命治療,尊厳死,臓器移植等)を投げかけていることは周知の事実である.これらの問題を考究するためには,哲学,倫理学はもとより,医学,薬学,看護学,法学などの専門家による学際的交流と共に,諸外国の研究者との学術交流が不可欠である.

本誌は創刊以来,上述の趣意達成のため努力を重ねているが,研究者は同時に教育者としての任務を課せられており,21世紀を担う次世代の若者たちに,人間社会の過去の叡知と共に将来のビジョンを培う責務を与えられている.科学,技術の画期的業績を背景とする世紀の転換期に当たり,人間の福祉と幸福のため,これらの試練をいかに乗り越え,国内外の学際的知見に基づきこれをいかに総合して日本の社会に還元するかが本誌に与えられた使命である.