2005年10月28日 日本医学哲学・倫理学会 理事会
表 題 討議倫理学の意義と可能性
著 者 朝倉 輝一
出版社 法政大学出版局(2004年2月)
受賞理由:本書は、2002年に東洋大学において授与された博士論文『討議倫理学の可能性』をもとにしてまとめあげられた労作であり、科 学研究費補助金を受けて刊行されたものである。本書の全体構成は、前半部がハーバーマスを中心として討議倫理学の形成とその展開についての論究がなされ、 討議倫理学の主要原理と概念の綿密な検討がなされている。この前半部の哲学・哲学史的議論を受けて、後半部はその討議倫理学が医療倫理学領野において果た すべき重要な役割についての議論が展開されている。自律性、医療者―患者関係等の解明にハーバーマスをはじめとする討議倫理学の重要性については誰しもが 了解し、期待するところが大きかったことは否定できない。この課題に本書は真正面から取り組んだものである。
さらに、現在の時点で言うならば、ケアの倫理に対して新たな討議倫理学的視点から論究を加えて、自律性・善行・正義の原則を中心とするア トム論的なバイオエシックスの立場へのケア倫理学の架橋の可能性を討議倫理学において見出そうとする試みは、医学哲学・倫理学的に、現在の医療のあり方に 根本から批判を加え、今後の医療のあり方を方向づけるものとして高く評価される。今後の課題としては、討議倫理学そのものが抱える問題点、すなわち治療に おける医療者と患者の間の不平等性の問題など、その限界に対するより一層の解明が期待される。
全体として、本著書は一方で哲学的に非常に綿密な研究をもとにできあがっていると共に、他方で、医学哲学・倫理学的見地からの医療における討議倫理学の重要性を鋭く呈示したものとして、本学会の学会賞にふさわしいものと考えられる。